5 Starsに魅せられて

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DAY ZERO のこと

  幾度か『DAY ZERO』を観て、その後映画版も観てみて、、いろいろ考えたりをしているので、今回はそんな個人的な感想を書きたいと思います。とりとめはなく、どうしようもなく長いですすいません。そしてセリフ部分は全てニュアンスです。

 

 

  『DAY ZERO』の舞台は徴兵制が復活したアメリカ。突然召集令状が届いた幼なじみ3人の青年の、出征までの3週間の日々を描いた作品です。

  2007年に同タイトルで米国公開された映画をもとに、上演台本・歌詞:高橋知伽江さん作曲・音楽監督:深沢桂子さんのお二方によって作り上げられたオリジナルのミュージカルの『DAY ZERO』。演奏者はなんとギターの中村康彦さんただお一人というなんとも特異な作品で、吉原光夫さん演出のもと、福田悠太さん上口耕平さん内藤大希さんの3人が幼なじみの青年を演じ、梅田彩佳さん谷口あかりさんがそれぞれヒロイン役をメインに他の役も演じ、西川大貴さんはそれ以上にストーリーに不可欠な多くのキャラクターを演じていらっしゃいました。

  本当に素晴らしい作品で、すでに私の中ではこの先絶対に忘れられない一作となっています。

 

 

  弁護士としてのキャリアや、ようやくガンを克服した妻との家庭、、努力して築いてきた自分の生活を意味のない戦争に奪われるくらいなら卑怯者と呼ばれても構わないとなんとか兵役を免れるために策を講じるジョージ(福ちゃん)。

  移民の両親のもと複雑な家庭に育ち、今では父親は行方知れず、母親をも亡くし、若いうちからタクシードライバーとしてひとり自立して生きているディクソン(上口さん)。そんな彼は “自由” が簡単に手に入るものではないと知っているからこそ自由な生活を守り抜くために、戦争に行って戦うことは当然の義務だと主張。  ただ、、そんな迷いの無かった彼が、そのカウントダウンの日々の中でようやく大切にしたいと思える女性に出会うのが切ないところ。

  そんな対照的な2人とはまた違うのが処女作の大ヒット以降、作品を書けていない小説家のアーロン(内藤さん)。日頃から内にこもりがちな彼はとにかく狼狽えるばかり。でも「戦争なんて絶対無理!」という割に、決して兵役を拒否したり逃れようとするわけでもないのがアーロンらしいところだろうなと感じました。

 

  26歳を過ぎれば召集の条件から外れて不安からも解放されるはずだったのに、不安定な世界情勢と志願者の減少により、年齢の上限が35歳までに引き延ばされたというその世界。34歳の彼らは、まさにギリギリのところで足をすくわれてしまった側の人間なのでした。

  そもそも個人的に一番衝撃だったのは2020年だというその時代設定。 

  一瞬、聞き間違いかな?と思ったものの、そのすぐ後の「この前の東京オリンピックでもテロ対策に莫大な費用がかかったらしいぞ」といったセリフで聞き間違いではないとしっかり念を押されました。  パンフレットやメディアでのあらすじでは “近未来のニューヨーク” などと謳われているものの、具体的な設定は2020年...。いやいや、そんなん明日やん! 

 

 

  作品の印象深いシーンで私がまず一番に語りたいのがディクソンとパトリシアの公園でのシーンです。

  冒頭からずっと続くどこか不均衡なリズムとマイナーな曲調になんとなく心地の悪さを感じていた中で、ふっとギターの音色が明るく変わり、ステージ上の光も明るくなって始まるディクソンとパトリシアのデートシーン。 初見時には、ただ単純に「あぁ、ようやくハッピーなシーンがくるんだ...!助かった〜!」と、お気楽に観ていました。自分の意思とは関係なくもう恋に落ちてしまっているディクソンの表情や、照れ隠しでツンツンしている彼の様子があまりにも可愛くて、、天真爛漫にディクソンに懐くパトリシアも本っ当に微笑ましくて、、ただただキュンキュンしながら観ていたんです。 

  でも、2回目に観た時はまっっったく逆で、あんなにお互いを思い合う二人が最終的には引き離されてしまうつらさを知っているからこそ、そのハッピーなギターのメロディーと、まさに恋が始まったその瞬間の、キラキラした2人の笑顔が切なすぎて正直観ていられなかったです。なので心落ち着くまでは思わず目を閉じてしまいました。 そういうことは初めてだったので今回改めて複数観劇の意義を強く感じました。と言うより、この作品は2回目の方が観劇後の引きずりが重かったです。 

 

  同じように、2回目で感じ方が違ったシーンが、アーロンがカウンセリングを受ける場面。1度目は深く考えずに観ていたのですが、そのリストをきっかけに歯車が狂い始めるアーロンを知った後では、カウンセラーのミスターニシカワの表情がまーーーなんとも胡散臭く見えて。不敵な笑みを浮かべて指を鳴らしたりアーロンの頭をグルグル回したりして、うまく彼を操っているような感じがなんだか信用ならない。。 そもそも「ずっと同じ悩みばかり聞かされてうんざりしている」とか「ようやく新しい悩み(徴兵されたこと)が聞けて嬉しく思うぐらいだ」とか言うあたりがエセい。。映画に出てきたワードに合わせてか、チャチャチャ風な曲調も相まって妖しさ抜群の印象深いシーンでした。

 

  と、ここで言及せずにいられないのが、ミスターニシカワの化け物さ!!! 今回初めましてだったのですが、とにかく私の中では「西川大貴=アメージング!」でございます。  彼の演じた数多い役の中で私が最も好きだったのはゲイバーのお客さんでした。

  ほんとにちょっとした髪型・衣装の変化でまさにその雰囲気を纏って出てきた彼。ジョージのどうしようもない憤りの矛先が彼に向かった時の2人の感情のぶつかり合いが激しくて、観ているこちらもぐっと強張ってしまうほど。

  今までも散々浴びてきたであろう偏見に、プラス、徴兵の際にはそもそも対象とされていないという、存在を無にされていることへの呆れと怒りが激しいほどに込められていて、歌の場面、目の前で膝をついているジョージの背中からその鋭い目線を片時も外さないその様子で彼が心底ジョージを蔑んでいるのが分かり、観ていてなんとも心苦しいほど。(もちろんジョージが)

  もう本当に、、全編通して西川さんはすごかった!!!

  冒頭の登場シーンではこれから始まる苦悩の日々を強く印象付けるかのように、凄みを効かせた目線で客席を見回してきたり、前述のようにカウンセラーでは妖しさを、ゲイの男では呆れと憎しみ、ディーラーは狡猾さ、ポン引きは短絡さ、後輩弁護士では若輩さを、アーロンの幻覚では潜み寄る静かな狂気をバシバシ放ってきて、、、まーーー西川さんの役者力本当にこわすぎ...!

 

  そしてこれまた驚愕だったのが谷口あかりさん。ジョージに支え支えられの奥さまモリーと、ジョージが助けずに見捨てたジェシカ、、その真逆な役を一人で演じる複雑さ!この辺りもこの『DAY ZERO』の面白いところだなぁと思いました。

  モリーの凛とした強さはまさに理想の奥さま像そのまま、そんなしなやかに強い女性からの、、ジョージを含め、自分を苦しめた男たちを一生許すことのできないジェシカへと変わった谷口さん。最初は両方同じ役者さんだとは気づかなかったし、なんならモリージェシカのメロディーが同じだということもパンフレットを読むまで気づきませんでした。(私が鈍感なだけかもですが...。) 

  どこか軽率なジョー(もちろん彼にとっては相当な覚悟の元の行為には違いないものの)を突き刺すようなジェシカの実情の歌も苦しかったです。そしてやっぱり、そういった台詞がしっかり伝わってくる谷口さんの歌声もさすがのキャリアの賜物...!

 

  福ちゃんの演じたジョージはいい家育ちの高学歴、ついた職業は弁護士さんという、“共感” とは程遠い男のようにも見えますが、それでも根本はとても人間くさくて、誰しもがなりうる一面を持っているように感じました。

  目の前で仲間が誰かを苦しめている時、果たして自分は本当にそれを止める勇気があるのだろうか? また、もし自分が徴兵された時、徴兵されていない周りを憎まずにはいられるのか? 実際その立場になってみなければ本当の答えは出ないはず。

  そもそもこれは私の勝手な想像に過ぎないのですが、もともとジョージはLGBTに偏見があるわけではないと思うんです。それでも戦争に行かなければならないという非常事態に、身近な対象へと怒りの矛先を向けてしまったのだと...。 なのであのシーンで私が感じたことは、人の価値観さえ変えてしまう戦争の惨さでした。

  相当の決意で行ったジェシカへの謝罪も、結局はお互いにとってまた新たな深い傷となってしまうのも辛かった。でも、そんな情けなくてみっともなく見えるようなジョージであっても、病気のモリーを心からの愛情で支えたという、その事実で彼という人間を語れればいいのだと思えたことは希望でした。

 

  内藤さんのアーロンに関しては、なんだか1枚の羽根みたいな子だなぁという印象。どこか自信がなくて、まるで静電気のように自分とは違う性質のディクソンに引き寄せられて、その対象がたまにジョージで、たまにカウンセラーで、、フワフワといつも何かに引き寄せられて宙に浮いているようなイメージ。

  だからこそ、彼はやりたいことリストを作るにあたって、一度は自分の意志で、自分の力で飛んでみたくなったのかなぁ、、と思いました。彼にとっての「地平線」って、ちゃんと地に足をつけられる場所、彼の存在するべき場所のことなのかなぁ、、と思ったり。

  とか言って正直、私自身はめっっっちゃアーロンタイプです。やらなければいけないことよりやりたいことに走ってしまうところ、過去の過ちを乗り越えるための行動に出ずいつまでも引きずって生きているところ、そして、物語の結末含め。

 

  梅田さん演じるパトリシアの印象はすっごく日本的に感じました。ディクソンと令状の話題になった時、ディクソン本人に届いたとはつゆにも思わない無垢さ。兄のことがあり他人事ではないと戦争のことを勉強し始めたものの、そうそう予想外のことは自分の身に重ならないと信じている彼女のピュアな部分って、どこか “平和” に浸かっている日本人みたいだなと思いました。

  とは言え、「机上で学んだとしても、じゃあ実際にそれを役立てられるのか?」、、そんなありきたりな批判も飛んできたとしても、そういったところから始めなければ何も進まないんでしょうね。「自分の小さな力では何も変わらないと思っていた」という歌詞って、つまりは「そうじゃない」っていうメッセージですよね。うん。

  ところで物語終盤、パトリシアと会って少し変わったディクソンが見えてハッとした場面がありました。アーロンとジョージの「僕たち悪人じゃないよ。もっと悪いことしている奴はいっぱいいるのに、僕たちが戦場におくられる。どうして?」「それは俺も思っていた。」という言葉に返したディクソンの「でもさ、じゃあ俺たち、何かいいことをしたか?世界のためにいいこと。未来のためになること。」という言葉、、これってきっとパトリシアの「子供達に関わる仕事をしてるのって未来のための仕事って気がする。」からきてるんだろうなぁと思うとグッときましたね。

 

  そんな上口さんのディクソンもたくましいようでどこか繊細で、女性の心を惹きつける魅力的なキャラクターだったと思います。そもそもこの物語、実は真ん中にディクソンあってのものなのでは?というぐらい軸のような存在。ジョージがいつだって彼をヒーローとしていたように、アーロンが唯一全信頼をおいている相手であったように、ディクソン自身も二人に頼られることで自分を存在させていたところが、人間関係の厄介でもあり、強いところを見たように感じます。

  また、最後に父親の気持ちに寄り添えたディクソンのひと言にもなんとも言えない深さがありました。大人になって初めてわかる親の気持ちという部分ももちろんあると思います。でも、それに加えて、自分も出征する立場になってみて初めて分かった部分もあると思うと切なかったですね。

  個人的にすごく好きだったのが、バーで酔っ払ってジョージとその後輩に絡むディクソンのシーンで、面倒だけど熱く語る酔っ払い具合がものすごくリアルで、上口さんという役者さんの実力を見ました。

 

  映画とはまた違った、日本に住む我々に最も響くように考えられた脚本も大好きです! 特に女性陣、モリーの健気さ、パトリシアの無垢さというキャラクターはお見事だと思います。

 なにより「 何もしなかった。明日はただの昨日のつづきだと、今日という1日をぼんやり過ごしていた。だから今日が来た。」という歌詞はまさに過ぎて返す言葉がなかったです。 周りの世界に無関心のまま日々を消化していく生活を考え直すきっかけをもらいました。明日は昨日や今日の積み重ねなんですね、きっと。

 

  感情に寄り添える楽器として選ばれたギターの音色も、ダイレクトに歌い手さんと響き合っていて、その場面その場面をしっかり色付けていました。ヒーローの歌のあと、いい感じのパトリシアとディクソンのBGMがムーディーで最っ高にカッコ良かったです!

 

  そしてやはりみなさんが口を揃えておっしゃっていたセットの凄さ! 大きな転換は無く、舞台上、場所の移動と少しの変化で全く違うシーンを作り上げるアイディアは本当に素晴らしいです!

  個人的に、リスト作りという案をもらったアーロンが、興奮気味にワクワクを表現しながら、ソファーと机をパタンパタンと順にしまうところがナチュラルで可愛くて大好きでした!

 

 

  そして最後に、やっぱり福ちゃんについて。

  事前の雑誌やラジオなどでは、いつもどおりの謙遜福ちゃんで “らしいなぁ〜” なんて思っていたけど、確かに実際劇場に行ってみたら、この錚々たるメンツでそう言うのも当然だよ、、ってなりました。みなさんの実力、本っっっ当にすごかったです!!

  でもだからこそ、その中で必死にもがいてさらけ出して、ジョージとして生きている福ちゃんの姿はリアルでした。 特に忘れられないのは終盤も終盤、去っていくディクソンの背中を見送るジョージの表情。本当にいい顔してた。

  それこそ私は、福ちゃんが雑誌・ラジオで日々奮闘する稽古の話をするたびに辰巳雄大さんばりに興奮していましたよ(笑) がむしゃらに何かに挑戦できる機会ってそうそうあることではないと思うんです。だからそんな貴重な体験をしている福ちゃんがとても羨ましく思いました。吉原さんはじめ、みなさんとの出会いで世界が広がった福ちゃん、、おめでとうございます!!! 

 

  東京公演、無事千秋楽を迎えられましたね。おめでとうございます。

  そしてここからも続く名古屋、大阪のカウントダウンの日々。新鮮でショッキングな彼らの21日間を祈っています。 

 

 

 

 

 

 

 

 

  、、、本当に長くなってしまいました。 が、まだまだほんの一部の感想です。もっと語りたいことは山ほどある。。この『DAY ZERO』は語りきるなんて絶対ムリーーー!!!