5 Starsに魅せられて

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The McGowan Trilogy

  先日、世田谷パブリックシアターへ舞台『The McGowan Trilogy』を観に行って参りました。

  率直に言うと、、、難しかったです。  

  1980年代の穏やかではない情勢のアイルランドを舞台に、アイルランド共和軍の殺人マシーンとも言われたヴィクター・マクガワン、そんな男の悲劇の3部作で成る『The McGowan Trilogy』は私にとって難しかったです。

 

 

  やはり今作も文ちゃんこと浜中文一くんの出演ということで観に行ったわけですが、“稽古の入りでは座学でアイルランドの歴史を学んでいる、頭パンクしそうだけど楽しい”(←ニュアンス)と書かれた彼のブログに感化され、私もちょうどその時期はいろんな図書館に行く機会があったこともあって、アイルランドについて書かれた本を読んでみたりしてその興味深い稽古法を真似してみたんです。

  でも、、

  北アイルランドと南アイルランド

  カトリックプロテスタント??

  英国支配??シン・フェイン党??

  IRAIRB

  、、、?????

  未知の単語のオンパレードに難解な言葉の羅列、、もうホントわけわかんない!となってもはや途中でギブアップ...。ひとまずパラパラと目を通す〜、ぐらいにまでハードルを下げて劇場へと向かいました。

  たぶん話は3分の1ぐらいしか理解できていないと思います。 でもそれはそれで私なりにこの作品から受けた印象、感想などを書き残したく思います。(※ネタバレあります)
 

 

 

  私は観劇中この一部、二部、三部は逆の時系列の物語かと思っておりました。

  一部のあの暴力的なヴィクターには、実は自分の正義を貫くために好きだった女の子にさえも手をかけた過去があって、更にその前には、思いが通じ合わなかった母親にも引導を渡した過去もあった。そういった、本当は心の奥で愛していた、愛して欲しいと思っていた女性2人を殺したという過去、そこまで冷酷なことをした過去があるからこそ、もはや自分の正義を証明することになんの障害も躊躇いも罪悪感もなくなったのだった、という話なのかと、、「狂ってしまったものは仕方ない」というとあまりにも雑で思慮浅い言い方ですが、そういうお話なのかと思っていました。

  ただ、あらすじをちゃんと読んだら時系列がしっかりあったのでこれが解釈違いであることは明らかなのですが、一度観ただけの現時点では “過去を遡っている” 方がしっくりきているので、私の中では未だにそのように捉えています。悲観論者なんで。

 

 

  一部は正直なんとも言えないバツの悪さというか気まずさというか心地悪さで観ていました。ヴィクターの本心が見えてこないひねくれたものの言い方、ついていけないユーモア、尖った態度、突発的な暴力性が私にとっては新鮮なものではなかったため、観ていて心のどこかでしらける感じ (演技がということではなく、ヴィクターという男に)。大きくなった今だからバーテンのような戸惑いや恐怖目線ではなく、俯瞰で見られるようになったからなのかも。 (、、、まぁそもそも観客って俯瞰だし...笑)

 

  この作品での思い出は、なんだか微妙に私自身の過去にリンクする部分もあってその分、逆に物語に入り込めなかったのか、私としては本当に珍しく観劇中に一度も涙が込み上げてこなかったことでした。

  史上最弱の涙腺の持ち主である自分は、何を見ても、読んでも、聞いてもすぐにウルッとしがちで、時にそんな自分に引いたりするのですが、、今回二部を観ても、三部を観てもその感情になることはなかったのが面白かったです。完全に私個人の感じ方の話ですが。

 

  特に二部の最後、ヴィクターが一番感情をあらわにするシーンでは、なんて不器用で哀しい男なんだ、、と思っていたら

  「あなたのために流す涙はないけれど・・・哀れんであげるわ、シルバー兄さん・・・」*1

  と、まさにドンピシャな、若かりし頃に読んでいたとある漫画のセリフが脳内に浮かんできたりして。(超余談) 

  まぁそんなことより、、趣里ちゃん演じる女の凛とした様がとても魅力的で、それでも、乱暴な言葉づかいだったり、タバコを吸う行動だったりは生々しくてその場面の恐ろしさを語っているようでした。趣里ちゃんの歌声も本当に素敵でしたね。

  それに、観劇中は距離があったので気づかなかったのですが、パンフレットの “女とヴィクターが抱きしめ合ったシーン” の稽古場写真を観た時に、女の顔のすぐ横にあるヴィクターの胸元にしまった拳銃がなんとも衝撃で、やっぱり女ってヴィクターが惚れるだけの女だなぁと、、なんだか彼女の強さを感じました。

 

  三部は本当に感じたままで受け取って、、と投げかけられたような託されたような。私の中で感じたこと、想像したことはありますが、突拍子も無いので心に留めておきます...(笑) 

  

  この作品、私としては一部はめくるめく衝撃シーンに振り回されて、二部では自然体な事実が彼らのバックグラウンドを素直にうつしてくれて、三部では散らばったそれぞれの感情で想像を巡らせられた、という印象でした。

 

 

  この難解な作品を噛み砕くのに、かなり頼もしい力となってくれたのがやっぱり公演パンフレット!

  というのも、みなさん個々のページのコメントが濃いこと! 作品づくりのアプローチや方法、キャラクターを具体的に話してくれているので稽古の密さも伝わってきます。本当に面白いです。それぞれがしっかりそのキャラクターの人生を落とし込んで、その人として彼ら、彼女、彼に対しているから、しっかり人生が存在する芝居がそこにはあるんだなぁと思いました。そしてそんなお芝居を逆に反映して、私も自分の人生を思い出して考えました。

  演出の小川絵梨子さんは『Take Me Out』の翻訳など、お名前しか知らなかったので今回は作品を観れたことがとても嬉しかったです。超ミーハーなわたしはプロフィールの「アクターズスタジオ大学院演出部を卒業」に食いついてしまうのですが(悲しいかな...)、パンフレットを読んだだけで論理的でもあり感情的でもある、建設的な作品の作り方をされる方なんだろうなぁと想像できて(全然知らないくせに勝手に想像して)すごい方だ!と思っています。

 

  ここでひとつ、パンフレットの中で特に驚いて面白いと思ったところがあったので書かせていただくと、、小柳心さんのページで、“アハーンがクロかシロかは見た方の判断に委ねます” 風なことが書いてあって、私的には「いやいや!どう見たってクロだったじゃん」と思ったのですが、確かに今になって考えるとシロの可能性もなきにしもあらずだなぁ、、と思えて。。

  、、というのもちょうど先週あたり私自身、友人の恋愛相談を受けたのですが、全く浮気なんてしていないしその気もないのに、彼氏がその子と元カレとの浮気を疑ってきて、超論理的な彼氏は疑うに値する(と彼が思っている)ポイントを淡々と述べてきて、彼女がそれらをどんなに説明しても屁理屈で返してきて、更には「そうやって疑われるようなことをするお前が悪い」と責めてくるらしく(.....)、そんな彼に怯えた友人は事態が悪化しないように小さな嘘をついたり、取り繕うような無駄な行動をとってしまい、結果それが裏目に出てどん底に陥っている、、という内容でして、、まさに “シロだったとしても恐怖のせいで自分がグレーに染まりに行っている” 一例だと思ったんです。だからそんな話を聞いたら、もしかしてアハーンも潔白だったのかも、、という可能性も考えるようになったのでした。美人の奥さんとのラブラブ生活という幸せを知ってしまったが故の恐怖かなぁ?(笑) 

 

  ちなみに、、そんな一部ではやっぱりヴィクターとバーテンの二人のシーンが好きでした。アハーンもペンダーもいなくなって、店の中で二人で過ごした数分。 

  「何かしなきゃって思うだろ?」って適切な言葉だなぁって思います。それに絶対ここで彼の人生終わる、、って分かっているんだけど、ヴィクターのふと見せる品位がまやかしの希望を持たせて、、でも絶対そういうところは裏切らないのがやっぱりめっちゃヴィクター・マクガワン。松坂桃李くんも難しい役柄を見事生きていましたね。三部の息子としてのヴィクターもかなり好きでした。

 

  ところで、カーテンコールではお一人、「???」の方がいて一瞬戸惑ったのですが、無線での声のご出演、薄平広樹さんとのことでした。てっきり録音かと思っていたのですが、生バンドならぬ生トランシーバーとのことです!ちゃんと軍服に身を包んでいらっしゃいました。(そりゃそうか)
  

 

 

  そんなマクガワンという男の人生とアイルランド、、やはり全体的に知らない単語、歴史、文化が多すぎて理解が追いつかなかったのですが、パンフレットにはしっかりキーワードの補足があったので開演前にそこだけでも観ておくんだった...!と若干の後悔が。“パンフレットは観劇後” のマイルールも考えものですね。

  それでも谷田歩さんは “お客さんには半分届けばいい” って言ってくれてたし、高橋惠子さんも “何を感じるかは人それぞれ” って言ってくれているから、それはそれでいいんでしょうね。あの時間を有意義に過ごせたのは確かなことだし。 それにしても、高橋惠子さんの “おかしかったら遠慮なく笑ってください” は優しくて素敵だと思いましたね〜!

  それにこの戯曲の作者、シェーマス・スキャンロンさんも、彼のTwitterを見る限りチャーミングな方のようで、この日本での上演を喜び、楽しんでいる様子が伝わってきました。一見シリアスでダークなこの物語は、とてもあたたかくて優しい皆さまで作り上げられているんですね。

  今日明日と有終の美を飾れますよう応援しています。

 

 

 

 

 

 

  

 

  ねぇねぇ、、、文ちゃん、桃李くんに「文さん」って呼ばれてるの??笑

 

 

 

*1:皆川亮二先生作、七月鏡一先生原案協力の漫画『ARMS』より